手探りで始まった、サステナビリティ推進。
現場から掘り起こした取り組みを元に、
ボトムアップの枠組みができた。
「サステナビリティ(持続可能性)」は今や未来を考える上で欠かせない世界的なテーマ。その領域は限りなく広く、企業価値を左右する指標ともなりつつある。
2021年11月、様々な部署の中堅・若手社員8人がサステナビリティ推進委員会事務局のメンバーに選ばれた。『まちづくりからみらいづくりへ』というサステナビリティ推進ビジョンを企業活動に落とし込み、継続して発展させていくにはどうしたらいいのか?個性的な8人の模索が始まった。
事務局の2人に取り組みを聞く。
―平野絢也は事務局で最年長の入社16年目、庵屋敷悠佳は最年少の入社4年目(取材時点)。平野は財務、庵屋敷は広報に在籍しており、これまで接点はなかった。他の6人もまた、部署も得意分野も異なる混成チーム。コロナ禍のため、初会合もリモートという波乱のスタートだった。
平野:もともとは部長クラスの研修で、あるチームが「サステナビリティ」を研究テーマに取り上げて議論し、社内で提案したことがきっかけです。森トラストグループ全体でサステナビリティに取り組む意義や方向性は打ち出されましたが、非常に領域が広く、部門を横断するテーマなので、具体的な企業活動に落とし込むには全社横断的な推進体制が必要でした。そこでまず、役員による「サステナビリティ推進委員会」が設置され、その下に実働部隊として事務局がつくられた、という経緯です。
事務局の役割は、部署間の調整を図りながら会社全体のサステナビリティ活動の推進を後押しすること。各部署が設定した目標の達成度合いを計りながら、定期的にサステナビリティ推進委員会や取締役会に進捗を報告して改善を図っています。
その中で私の主な役割は、グループ全体のサステナビリティ活動が自律的に継続して回っていくような枠組みづくりです。
―事務局が最初に着手したのは、グループ会社も含め全部署のサステナビリティ活動の掘り起こし。それらを分類して7つの重点テーマを立て、各部署が目標や活動、課題などを分類して書き込めるシートを作成した。
平野:「やるべきこと」はわかっていても、「どうやるか」は本当に手探りでした。いろいろな企業のケースや上場企業向けに作られたガイダンスなども調べましたが、当社にぴったり当てはまる雛形はなかった。「じゃあ、自分たちでゼロからつくろう」と腹を括りました。
「取り敢えず、材料を全部集めよう」と、手分けしてグループの取り組みを徹底的に掘り起こして整理することからはじめたんですが、結構大変でした。一覧表にまとめるまで、各部署とは何度もやり取りしています。
庵屋敷:森トラスト・ホテルズ&リゾーツだけでも、ホテルやレストランを運営している事業所が20以上あります。これまでは各ホテルが独自にサステナビリティ活動に取り組んでいたので、最初はレベル感を合わせるのが難しくて。KPI(業績評価指標)の設定が難しい項目も多かったので、いろいろな方に協力していただいてなんとか整理しました。
平野:再生可能エネルギーの調達のように、目標達成にはコストがかかる項目も多いので、各部署の判断だけでは勝手に高い目標を設定できない、という面もあります。私は財務なので、グリーンファイナンス(環境分野への取り組みに特化した資金調達のための債券や借入)等にも関心がありますが、これも複数部署の連携は不可欠ですし、経営判断の領域に入ってくるものもあります。このような横断的な取り組みに対して、各部署が動きやすいルールをどう作るかについてもまだ課題はあります。
話を戻しますと、現場から集めた取り組みを元に、当社としての7つの重点テーマを立てました。その上で、各部署にそれぞれの活動や課題を自ら分類して記入してもらうシート(雛形)を作り、提出してもらいました。その後、それぞれの目標設定をお願いした、という流れです。
森トラストグループとして重点的に取り組むテーマは以下の7つ。
いずれも現場の取り組みをもとに組み上げた独自のテーマだ。
平野:サステナビリティは「環境」と「社会」がクローズアップされることが多いのですが、当社は「経済」にも重点を置いています。例えば、サステナブルな事業や企業への投資とか、イノベーションや新規事業を興すといったことをサステナビリティ推進の取り組みに位置付けている。これは当社の大きな特徴だと思います。
私自身もサステナビリティを綺麗事では語りたくないタイプ。この問題って、人によって温度感が違うじゃないですか。理想論だけではなく、あくまでサステナビリティが大きな社会テーマであるという事実を基点に、具体の企業活動を通じて何が出来るか、関係者が同じ方向を向いて議論した方が独自の取り組みも生まれやすいのではと考えています。
いずれにせよ、事務局の活動も始まったばかり。ようやく社内の取り組みの掘り起こしと分類、KPIの設定まできたところです。先ほど言ったようなルールづくりや、それぞれの取り組みや成功事例の共有、グループ会社や部署間の連携強化などはこれから。まだまだ道半ば、といったところです。
目指すところは、「仕組みがうまく回り、各部署からのボトムアップで活動が成り立ち、事務局の仕事は取りまとめだけになっている」というのが、私の理想のシナリオです(笑)。世の中自体も転換期なので、そんなに甘くないことは理解していますが。
―当初は、突然の事務局兼務の辞令に戸惑いも感じていた2人だが、2年間の活動を通じて得たものも大きかったようだ。
庵屋敷:一つは、この活動を通じて事務局のメンバーはじめ、いろいろな部署の方と知り合えたこと。私は森トラスト・ホテルズ&リゾーツ入社でしたので、事務局に入ったときは森トラストに出向したばかりで、知り合いがほとんどいない状況でした。だから尚更、活動を通してたくさんの方と関わりを持てたことが嬉しかったです。
もう一つは、サステナビリティ活動の掘り起こしの一貫として、南紀白浜マリオットホテルがずっと続けてきた熊野古道の道普請に参加したことです。総支配人やシェフを含めた約30人の社員と1トンの土を運びました。一緒に汗を流して活動した後はとても爽快でした。
森トラスト・ホテルズ&リゾーツの一員として、サステナブルな活動を掘り起こし、熊野古道の道普請のように、ポジティブにお客様が関われる体験プランを企画・立案したい。「日本の歴史や文化を深く知りたい」と思っている海外の方や、日本人のお客様でも一過性の観光では飽き足らず、「もっと深く地域の人々と関わりたい」と思っている方が増えています。サステナビリティを軸に、そうしたご希望に応える体験型の企画をしていきたいと思いました。また、広報の立場としては、知られていない日本各地の魅力をサステナビリティと併せて国内外に積極的に発信していきたいです。
森トラスト・ホテルズ&リゾーツに入りたいと思ったのも、地方各地で外資系ホテルを展開していたからです。学生時代、ドイツ文学を専攻していて、ドイツのバンベルクという街に留学しました。世界遺産の都市ですが、世界にはほとんど知られていない。日本にも素敵なところなのに世界には知られていないところがあります。「これってもったいないな、もっと世界に発信していきたい」と思ったんです。
今、気づいたんですが、「まだ、知られていない良いところを探し出して発信する」という意味では、この事務局の活動とも共通しています。「自分がやりたかったことと、不思議なほどつながっているんだな」と改めて思いました。
平野:事務局としてよかったと思うのは、グループのサステナビリティ活動を掘り起こしたことで、それぞれの部署や社員が改めて自分たちのサステナビリティに対する取り組みを再認識できたこと。拾い出した活動のうち、半分以上はすでに実施していたものです。部内では埋もれがちな活動に光を当て、「サステナビリティ」という軸で企業の価値を整理できたように思います。
引き続き、選ばれ続ける企業であるための施策を議論していきたいです。私は主部署が財務ですので、サステナビリティ活動の財務インパクトについて明確にしていけるよう、評価や分析を進めたいと思っています。
個人的なことですが、私は典型的な理系。理系は狭い領域を深く研究するという感じですが、私は逆で、的を絞りたくないというか、範囲の広いものが好き。それで建築学科に進み、建築の中でもさらに領域が広い都市環境の研究室に入りました。なぜか、領域がはっきりしていないところに吸い寄せられてしまう(笑)。そういう意味では、限りなく領域が広いサステナビリティを、組織を横断してまとめていくという事務局の活動も似ている。だから吸い寄せられちゃったのかな(笑)。
それともう一つ、庵屋敷さんも挙げていましたが、普段の業務で接点のない役員の方や社員の方と話す機会が増えたこともよかった点です。事務局メンバーも本当に様々で面白い。それぞれのキャラや特技などを生かしながら活動できた点もとてもよかったと思っています。
―たしかに事務局には個性的なメンバーが集まっている。このふたりを見ても、片や身長190センチの理系のクールな理論派、片や156センチの「めちゃめちゃ文系」と自ら認める明るい行動派。サステナビリティでも「多様性」が重要視されるように、事務局自体も多様性を土壌に新しいことに挑戦している。
―インタビューの最後に、自身の生活でどんなサステナブルなことをしているかを聞いてみた。前の質問にはあれほど雄弁に語ったふたりが顔を見合わせてもじもじ。
庵屋敷:ゴミの分別とか、エコバッグを持ち歩くとか。でも、これって「定番」ですよね。
平野:私も「定番」はなんとかやっていますけど、正直言って「意識高く生活しているか?」といわれたら自信はないです。ただ、子どもの保育園もサステナビリティに関する教育を取り入れていて、子どもも、SDGsなどについてある程度わかってきている。「パパ、ダメだよ!」なんてダメ出しされないよう、心掛けていきたいと思っています。
―サステナビリティ活動の究極の目的は「未来=子どもたち」のため。最強のモチベーションかもしれない。
–Profile–
平野絢也(ひらの・じゅんや)
学生時代は建築を専攻し、都市環境系の研究室に所属。2007年森トラスト入社。発注部、森トラスト・ビルマネジメント㈱内装部、森トラスト・アセットマネジメント㈱投資運用部、社長室などを経て、2020年7月から森トラスト・ホールディングス経営管理部(財務グループ)に。2021年11月よりサステナビリティ推進委員会事務局を兼務。世界遺産が好きで、コロナ禍の前は国内外の世界遺産を数多く来訪。バスケットボールやゴルフが趣味だったが、最近は「子どもと遊ぶのが楽しい」という良きパパでもある。
庵屋敷悠佳(あんやしき・はるか)
学生時代はドイツ文学を専攻。2019年、森トラスト・ホテルズ&リゾーツに入社。東京マリオットホテル、総務人事部を経て、2021年森トラスト広報部に。同年11月よりサステナビリティ推進委員会事務局を兼務。趣味は旅行と愛犬と遊ぶこと。学生時代に留学したドイツをはじめ、10カ国を旅した。最近は街歩き謎解きにハマっている。