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社会課題をロボットで解決したい。
ロボットフレンドリーな環境の構築に向け、
企業の壁をも超えてプロジェクトを率いる。

社長室戦略本部デジタルデザイン室 部長代理 朝比奈 泰裕

日本の課題である人口減少、さらに喫緊の問題である人手不足などに対する解決策の一つとして、様々な分野でサービスロボットの普及に期待が集まっている。森トラストは外部機関や異業種企業と連携し、オフィスやホテルなどにロボットを導入するための調査研究や実証実験を推進している。そのチームを率いるのが、デジタルデザイン室の朝比奈泰裕だ。


―朝比奈が所属する社長室戦略本部は、コーポレートスローガンである「Create the Future」のもと、未来を拓く戦略をスピーディーに進めていくための組織だ。2019年にできたデジタルデザイン室はその中のデジタル領域を担い、その一つとしてロボットの導入に関する網羅的な研究と検証を進めている。

当社には、以前から清掃ロボットや搬送ロボットの導入を検討しているチームがありました。しかし、既存のロボットを導入するだけでなく、もっと広くロボットの可能性や普及条件について考えていこうと、2019年、社長室戦略本部デジタルデザイン室でロボット研究がスタートしました。

産業用ロボットと違い、オフィスやホテルで使うサービスロボットの場合はヒトとロボットが空間を共有する難しさがあるうえに、経済的に導入効果が出しにくく、なかなか普及が進みませんでした。ロボットの円滑な導入や普及にはメーカーやベンダーだけでなく、施設管理側の視点やノウハウが欠かせません。

「どんなロボットなら普及が加速するのだろうか」、「ロボットを導入するために、建物にはどんな物理環境が必要だろうか」、そうしたことを具体の建物で検証し、サービスロボットの普及を阻む課題とその解決策を探ることが研究の目的です。

朝比奈 泰裕

経済産業省も同時期、同じような問題意識から、施設の所有者・管理者とロボットメーカーやベンダーなどを集め、それぞれの視点から課題を出し合う場をつくりました。それが「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」で、当社も参画しました。ここでは施設の運営管理の視点から課題を拾い出し、重大かつ効果が大きいものから優先順位をつけていきました。例えば、エレベーターや自動ドアとロボットの連携や、ロボットが走行しやすい物理環境特性を探ることなどが優先課題として挙がっています。

その後、こうした課題をクリアするため、経済産業省は「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に予算をつけ、参加する企業を募集しました。当社を含む4社による研究開発がこの補助事業に採択され、ロボットを導入しやすいロボットフレンドリー(ロボフレ)な施設の物理環境について調査研究&実証実験が始まりました。

2021年度の研究開発に用いた配膳・運搬ロボット「keenbot」。©SoftBank Robotics
2021年度の研究開発に用いた配膳・運搬ロボット「keenbot」。©SoftBank Robotics

―2023年3月、ロボフレ施設管理成果報告会で、朝比奈は「ロボフレレベル」と「共有マーカー」について発表。一般社団法人ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)の物理環境特性テクニカルコミッティ(TC)の長としても活動している。

「ロボフレレベル」は、ロボットが導入しやすい物理環境をレベル化し、誰にでもわかりやすく示すのが目的です。例えば、床の傾斜、段差、通路幅、出入り口の幅、ドアの仕様、床面や壁面の素材、照度、通信環境などについて、それぞれA、B、C3段階の基準を定めています。

ロボットをX地点からY地点まで走行させる場合、全ての項目がAであれば、そのゾーンのロボフレレベルはA、つまり、「どんなロボットでも走行できますよ」という理想的なレベルです。ロボフレレベルBは標準的なロボットが走行できるレベル、Cは建物側で手を入れないとロボットの走行に支障をきたすレベルです。また、一つでもC評価の項目があると、対象ゾーンのロボフレレベルはCとなり、その部分の改善が必要です。こうしたことを建物の所有者や管理者に気づいてもらい、改善点を明らかにする意義があります。

例えば、通路幅でいうと、人間だけなら1.2mで十分ですが、ロボットは片側0.8m以上、すれ違うには1.6m以上、できれば1.8mは欲しい。これから設計するのであれば最低1.8m、できれば2mは確保したいところです。ちなみに当社の本社がある神谷町トラストタワーの廊下は2mなので、Aレベルです。

最初は「ガイドライン」のつもりで作成しましたが、「これは誰にとってもわかりやすい」ということで規格化することに。そして先日、「ロボフレレベル」を規格として発行することができました。

RFA規格(サービスロボットの移動の円滑化 ― 物理環境の分類と指標 ―建築物およびその敷地内 RFA B 0003 : 2024)の発行と販売のお知らせ

朝比奈 泰裕

技術的には、何でもクリアできるハイスペックなロボットを作ることは可能ですが、その分高額になります。普及を加速させるためには、建物側の環境をロボットに優しい形(ロボフレ)に整備し、標準的なスペックのロボットを低価格で導入できるようにすることが効果的です。経済的メリットが導入・運用コストを上回れば一気に普及が進むでしょう。

2024年に第一期竣工する「東京ワールドゲート赤坂」は、ロボフレレベルを高めた最先端ビルになる予定です。これまでよりロボットが活動しやすくなることで、ビルを利用される方々を大いにサポートしてくれるはずです。それだけでなく、ロボフレレベルで先行することは、ビルの競争力を高める上でも大きな強みになるはずです。

―ビルの中で普通にロボットが走り回る世界。SFチックな感じもするが、その世界はもう目の前だという。

たとえば、会議室から1階のコンビニにコーヒーを注文すると、ロボットが店舗で商品を受け取り、セキュリティゲートを通過してエレベーターを使ってオフィスまでコーヒーを届けてくれる。こうした搬送ロボットのほか、館内を走行する清掃ロボットや警備ロボットにも驚く人はいない。多分、10年以内に、ロボフレレベルAのビルでは、これがごく普通の風景になるでしょう。

過去の城山トラストタワーにおける搬送ロボットの実証実験の様子
過去の城山トラストタワーにおける搬送ロボットの実証実験の様子。注文者は、オフィスやカフェ周辺のテーブルにいながら、スマートフォンアプリから注文・決済するだけで、ロボットが 1 階のカフェから目的地まで商品を搬送して受け取ることができる。

実際5年前と比べると、搬送ロボットや清掃ロボットを見る機会は増えています。経済性をクリアしつつある証です。加えて昨今の人手不足、最低賃金の上昇などを考えれば、ロボットに置き換えていく効果が出やすくなっています。この先も多分この傾向は続くでしょう。施設の物理環境が整えられていけば、ロボット導入の経済性はさらに高まります。また、今後、ロボットのリース市場が確立し、例えば3年で新機種に取り替えるのが普通になれば、ロボット自体ももっと安く作られるようになるはずです。

―ロボフレ環境を構築するキーワードは、標準化、規格化、共有化だ。朝比奈は、報告会でロボットの走行に必要なマーカー(標識)を「共有マーカー」にする提案も行っている。

マーカーとは、走行するロボットに位置情報を与える標識のようなもので、壁や天井につけます。今ではマーカーなしで走れる高性能ロボットもありますが、価格が高い。一世代前のロボットはマーカーが必要ですが、価格的なメリットがあります。ただ、メーカーごとに独自のマーカーを付けたらロボットメーカーの数だけマーカーが増え、壁がマーカーだらけになってデザイン上も問題ですので「共有マーカー」を提案しました。

共有マーカーの持つ情報量を増やし、位置情報だけでなく、ここがどういう場所か、今日の来客数のデータなども付加することができれば、日々の状況に合わせて走り方をコントロールすることもできます。

10年後、20年後は、共有マーカーも不要になると思いますが、それまでは共有マーカーを活用してリーズナブルにロボットを走らせる方が現実的です。未来永劫続く技術はありません。共有マーカー自体もどんどん新技術に置き換えられていきますから、いち早く導入して効果を享受し、次のものにどんどん置き換えていく。その予測とスピード感がとても大事です。

朝比奈 泰裕

2023年9月からは、異業種3社と共に「仙台トラストタワー」で、複合施設のサービスロボット実装に向けた実証実験が始まっている。

今回の実証実験のポイントは、オフィス、店舗、ホテルなど、複数の用途をまたがってロボットがどういうふうに使えるのか、さまざまなユーザーの反応はどうかなど、効果や運用上の課題、経済性を検証することです。また、エレベーターや自動ドアなど、同業他社の実験結果も踏まえて検証しています。当社の「ロボフレレベル」も他社による改良点を加えるなど、各社の取り組みをベースに更なる標準化やバージョンアップを進めていきます。

異業種や同業他社とのコラボレーションはとても面白いし、皆、共通の目的(ロボットの普及促進)があるので、世代や企業の壁を越えて率直な意見交換や情報の共有ができています。こうした経験は、会社にとっても参加した若手にとっても財産になるはずです。

朝比奈 泰裕

―実は、朝比奈はこれまでロボットとは全く縁がなかった。大学では都市計画を専攻したが、「ホテルの現場を知りたい」と当社グループ会社でホテル運営を担う森観光トラスト(現・森トラスト・ホテルズ&リゾーツ)に入社した。

ホテルの現場を経験したかったのです。いいホテルを作るには、建築とホテルの現場の両方を知らないといけない。例えば、客室のテーブルはインルームダイニングの朝食がおける大きさとか、そういうことは現場を知らないと実感としてわかりません。

―ホテル時代は、主にホテルの立ち上げに関わった。リブランド開業プロジェクトでは、軽井沢マリオットホテルを皮切りに、5つのホテルを開業させている。驚異的なペースだ。

軽井沢マリオットホテルのリブランド開業プロジェクトを任されたとき、社長から「来年は5カ所やります」と言われました。「普通にやっていたらとても無理だ」と思い、徹底的に業務のシステム化を図り、メンバーを育てました。結局、私含めた3人がそれぞれリーダーとなり、5つのホテルを立ち上げました。その後、森トラストのホスピタリティ戦略室(当時)に異動しましたが、ここでもホテルの開業やホテル事業の基本戦略を担当していました。

―次々にホテルを開業させた朝比奈だったが、2019年、いきなり社長室戦略本部デジタルデザイン室のトップに抜擢。本人は気づかなかったが、社内には「未知の領域を任せるなら朝比奈だ」という定評があった。

青天の霹靂でした。思わず、役員に「なんで私なんですか、間違いですよね」と言いましたが、「いや、お前なんだ」と。

ホテルの開業は不測の事態の連続で、しかも待ったなしです。例えば、今日スタッフ研修があるのにインターネットが繋がってない。仕方なくマニュアルを見ながら繋いだらITに強い人だと誤解されました。また、複数のホテルをスケジュール通りに開業させるには業務を洗い出し、徹底的にシステム化しなければできない。トラブルの内容も関係者も多種多様です。確かに大変ではありますが、トラブル解決に追われる緊張の日々は結構楽しかった(笑)。つらつら考えてみると、トラブルや問題を解決することは昔から結構好きでした。

朝比奈 泰裕

―問題の核心を捉えて解決を図る力や、いろいろな要素を組み合わせてシステム化する力は、デジタルデザイン室でもフルに発揮されている。社内の仕事をこなしつつ、RFAではロボフレレベルの規格化に向けた物理環境特性TCの長を努めるなど、八面六臂の活躍ぶり。超多忙のはずだが、どこかゆったりした雰囲気が漂う。

仕事の面白さは、一人ではできないことができるところに尽きます。それと、仕事が終わってからみんなと楽しくお酒を呑むことですかね(笑)。

朝比奈 泰裕

―酒豪である。191センチの身体に似合う豪快な呑みっぷりらしい。呑み会と同じくらい好きなのが、子どもたちの成長を観察することだと言う。12歳の双子の女の子と4歳の男の子がいる。

女の子と男の子では全然違いますね。男の子はカオスです。すぐいなくなっちゃいます。今朝も姿が見えないと思ったら、一人で隣の家の家庭菜園の観察に行っていて「ナスが6個増えてた」とか、言っている(笑)。僕のことは遊び相手と思っているようです。上の2人は中学受験のときは「先生」扱いでしたが、用が済んだ今は「ただのおじさん」です(笑)。


Profile
朝比奈泰裕(あさひな・やすひろ)
愛知県一宮市出身。2005年森観光トラスト(現在の森トラスト・ホテルズ&リゾーツ)入社。ウェスティンホテル仙台をはじめ、複数の外資系FCホテルの新規・リブランド開業プロジェクトを担当。2019年より森トラスト社長室戦略本部デジタルデザイン室にて、ロボットの社会実装に向けた実証実験などに関わる。特技は将棋、好きなことは子どもの成長に驚かされる瞬間。大学時代は都市計画を専攻。学業以外はお酒、麻雀、旅行、塾講師に明け暮れていた。

朝比奈 泰裕