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「何を」つくるかだけでなく、「何のために」つくるのか
未来の街づくりを模索していると、妄想が膨らんでわくわくが広がる

歴史と未来を紡いでいく観光拠点・東京ワールドゲート赤坂は、2024年8月、無事に第一期竣工を迎え、本竣工である第二期竣工を控える。
コンセプトは「再会」。掲げたのは「Next Destination ~もう一度、街で会おう~」である。企画開発を手掛けた山村真人の仕事はまさしく、「街のあり方」を再発見し、民間発意の土地計画を主導することから始まった。

―不動産売買業務を経て、2006年から不動産開発本部へ。以来18年にわたって不動産の企画開発に携わってきた。

不動産開発はデベロッパーの醍醐味です。土地の用途を具体化し、場所・街・土地の価値を最大化するための企画立案、関係部署との調整、各種手続きを担っていきます。

ホテルをつくるのがいいのか、オフィスをつくるのがいいのか、 住宅をつくるのがいいのか。実際に図面を書いて収益を試算しながらあらゆる可能性を模索して企画案に落としていきます。ここにこんなホテルが建ったらいい、こんな空間ができるんじゃないか、こんな街ができたらどんなにいいだろうと想像すると楽しくて、どんどん妄想が膨らんでいきました。

―関係者や周辺の皆さんとの交渉業務は「説得」ではなく「対話」。情報を共有し合いながら、何が全体最適かの検討を重ねていく。仲間を増やして未来を模索する、その過程はさながら冒険小説のよう。

行政や関係各所との交渉も、すごくやりがいがあるんですよ。土地を持っている権利者さんや建物に入居しているテナントさんたちは、土地への思い入れや家族の事情などを抱えており、必ずしも利益やロジックだけで納得してくださるわけではありません。

交渉というと、何かこちらのストーリーを一方的に話して説得するイメージがあるかもしれませんが、実際にはこちらが用意できる情報やデータを共有しながら、関わる人たちにとってのベストな未来がどこにあるかを模索していく作業なんです。一緒に描いた未来を共有して実現していくと思えば、少しずつ仲間を増やしてよりよい街づくりを目指す冒険のようでもありますよね。

―「何をつくるか」はもちろん、「何のためにつくるのか」。一から考えられるのが不動産開発の仕事。

小中学校は転勤族で、千葉県松戸市から岡山、愛知とわたって計4回の転校を経験し、さまざまな街を見てきました。建物が好きだったので大学・大学院では建築を専攻。当時流行っていたオランダの建築を真似ては模型をつくったものでした。有名建築家が建てた建築物そのものの魅力やユニークさばかり注目されがちですが、私は周囲の環境の中で成り立つ建築の価値・あり方に興味があり、日々そのような研究を続けていました。

実際に「つくる側」に行きたかったので就職先はゼネコンや設計事務所ばかり考えていましたが、当時は就職氷河期でなかなか求人が見つかりません。そんなとき、森トラストは自社に設計部門を持ち、自分たちで企画設計ができるということを知って入社を決意しました。入社後2~3年は投資事業部で土地や物件の仕入れを担当したのち、関連会社への出向を経験した上で開発部署に異動。そこから18年にわたって東京ワールドゲートなどの開発業務に携わってきました。

二十数年前なのでCAD(Computer Aided Design)はありましたが、大きな製図版で図面を書いている先輩たちもいて、研究室の延長のように思えて楽しかったですね。次第に、「誰かがつくりたいものを依頼されてつくる」のではなく、「自分たちが本当に必要だと思うものをつくる」ことができるのがデベロッパーであり、大学時代に研究していた周囲とのあり方を考えながら街をつくっていくことができる仕事なんだとわかってさらに仕事が楽しくなりました。

「自分がつくりたいものがあるなら、デベロッパーに行きなさい」と甥っ子にもよく話すんですよ。結果的にやりたかったことは森トラストでできていて、入社してよかったと思いますね。

―虎ノ門で1万5000㎡を超える土地の大規模開発の担当に。企画提案はまさに100本ノックで、行政からのご指導を受け、とぼとぼと帰社する日々が続いた。

森トラストの本社が入る神谷町トラストタワーは、東京ワールドゲートと呼ばれる複合施設の中にあります。これは「虎ノ門4丁目プロジェクト」と呼ばれた1万5000㎡以上の土地の大規模開発であり、私はこのプロジェクトに企画段階から携わりました。

このような大規模開発では周囲のインフラ整備と合わせ、「都市再生に資する建物の機能」を提案することが求められる「都市再生特別地区」、いわゆる特区という開発手法を用いることがあります。
当社は丸の内トラストシティで特区を活用していますが、当時は特区制度自体が手探りの時代で、虎ノ門4丁目プロジェクト検討のころとは状況が大きく異なります。苦労したのはまさにこの点でした。何しろ国や都が求める計画要件のストライクゾーンがわかりません。アイデアを提案してはダメ出しを受け、肩を落としてはとぼとぼ会社に戻ってくる。そんな日々は1年以上にわたりました。

特区提案ではインフラ、機能、環境、防災の主に4つのテーマで提案するのが現在では通例とされていますが、そのような慣習をまだ知らなかった当時は、「環境に特化し、植樹によって二酸化炭素を削減する緑豊かな街づくりを目指します!」などと提案しては「要素が足りない」と都や区から却下されて落ち込んでいました。

最終的には「日本の文化を世界に発信する」機能と「充実したビジネスライフの実現をサポートする」機能を融合させたクリエイティブラウンジ「CoCo Lounge(ココラウンジ)」や多言語対応の医療施設をつくる計画で話がまとまりましたが、提案のルールを理解するまでの間、正解の方向性がわからない中で企画を模索し続けるのは非常に骨が折れる作業でした。正直私にとっては暗黒時代とも呼べる時期でしたね(笑)。

土地を取得したのが2007年。リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍というさまざまな困難を乗り越えて2020年、ようやく東京ワールドゲートは開業までこぎつけることができました。

都市開発業務に関わる特区制度って?

都市再生特別地区とは、2002年に創設された地域地区およびこれを活用する制度。都市再生緊急整備地域内において、既存の用途地域等に基づく用途・容積率等の規制を適用除外とした上で、民間都市再生事業において自由度の高い計画を定めることができる。

国家戦略特区とは、特定の地域や分野における大胆な規制・税制緩和を通じて、実現困難な事業の実現を図ることを目的とした規制改革制度のこと。国際競争力の強化を目的に2013年に創設された。東京都では、都市再生特区の決定手続きにおいては国家戦略特区の活用を原則としており、虎ノ門4丁目プロジェクトは国家戦略特区第1号案件となった。

―虎ノ門の経験を生かして、赤坂の大規模開発へ。今度は「街づくり」とは何か、を異業種混合で定義するところからプロジェクトが始まった。

同様の案件に、2025年に本竣工を迎える東京ワールドゲート赤坂があります。これは他社との共同プロジェクトとして、赤坂2丁目プロジェクトと呼ばれていました。

虎ノ門4丁目プロジェクトに比べれば提案の形式やロジックの立て方がわかってきたこともあって難易度はそれほどではないだろうと思っていました。ところが企画提案の作業に加わってみると、まったくそんなことはありません(笑)。 周辺の方々との合意形成にも苦労しましたし、何より赤坂の場合はエリアの方針である「まちづくりのガイドライン」を考えるところから始めなければならなかったことがプロジェクトをより難しくしていました。

そこで、赤坂エリアのまちづくりに関わるプレイヤーや地域のさまざまな業種の関係者、さらに都市計画の権威である大学教授なども集めて複数回にわたってワールドカフェ形式で勉強会を開催し、「街の共通認識」をすり合わせていきました。みんなで付箋をぺたぺた貼りながら、赤坂の街はどうあるべきかを徹底討論。結果、赤坂は氷川神社や大名屋敷といった史跡を中心とする歴史の街であるという点を核として、民間発意の将来像を港区に提出しました。

以降、歴史文化を専門とする有識者へのヒヤリングや氷川神社との協議等を経て、希少な地域資源として残る江戸型山車の修復のお手伝いやその展示施設の整備、祭礼時の主要巡行ルートの電線類の地中化、江戸文化を発信するミュージアムの新設といったさまざまなアイデアを形にしていきました。

2024年8月、東京ワールドゲート赤坂は無事第一期竣工に至り、今後順次開業していく国際基準のホテルや大規模緑地、歴史文化の発信施設を備えた新たな観光拠点として、描いた未来像のスタート地点に立つことができました。

―開発の「わくわく」を知ってほしい。地方のホテルから海外の不動産開発まで、いつまでも現場で若手とプロジェクトを担っていたい。

最近では大規模開発の案件は減少傾向にありますが、単発の不動産開発だって、ただ地方にホテルを1棟建設すればいいというわけではありません。関係各所との調整ごとは大変ですが、面倒くさがらずに面白がってほしい。何より、街の、不動産の価値を高めるには何が必要なのか想像することは本当に楽しいものです。このわくわくを若い人たちには是非知ってほしいですし、私自身、まだまだ若手の皆さんと現場でプロジェクトを推進していきたいと思っています。

森トラストでは海外の不動産も運用しているので、今後は国内だけでなく、海外の不動産開発も担当してみたいですね。そこにはどんな街づくりが広がっているのか、想像するだけで今から心が躍ります。

Profile

山村真人(やまむら・まさと)
千葉県松戸市出身。大学大学院で建築を学んだ後、森トラストに入社。不動産売買や開発担当者を歴任し、現在は不動産開発本部開発企画部を統括している。東京ワールドゲート、東京ワールドゲート赤坂などの企画開発を手掛けた。

不動産開発本部開発企画部 山村真人(やまむら・まさと)